↓この話の続き

曾祖母が亡くなってから、
しばらく経った頃。
曾祖母の法事がありました。
その日は、少し遠くに住んでいる祖父母が泊まりに来ていて、
夜は和室で一緒に眠ることになりました。
祖父、祖母、私、姉。
そんな順番で、
みんなで川の字になって寝ていました。
夜中。
ふと、目が覚めました。
隣で寝ている姉の
うなされている声がしたからです。
気になって目を開け、姉の方を見ました。
すると――
姉と私の間。
ちょうど私たちの頭のあたりに、
誰かが立っていました。
白い着物を着た人。
寝転がっていた私の位置から見えたのは、
白い着物の裾と、
そこから覗く、青白い足でした。
その色は
明らかに生きている人間の足ではなった。
血の気というものが、
まるで感じられない色でした。
私はすぐに目を閉じました。
そして、
絶対に上を見ないようにしながら、
隣で眠っている祖母の方を向き抱きつきました。
気がついた時には、朝になっていました。
朝起きると、姉が言いました。
「昨日、白い着物着てる女の人がずっと見てきた」
その言葉を聞いた瞬間、
昨夜見たものが
一気によみがえりました。
姉も、
私が見た同じ人を見ていたんだ。
そう思いました。
そしてこの日を境に、
私は家の中で
その女性を何度も見ることになります。
黒くて長い髪。
白い着物。
背が高く、
細身の綺麗な女性。
当時の私は、
その人が何者かなんて分かっていませんでした。
ただ、
「また、あの白い着物の人がいる」
そんな感覚でした。
その女性には、
決まった動きがありました。
いつも同じ場所から現れて、
同じ場所を通り、
そして、
同じ場所へ消えていく。
何度見ても、ほとんど同じ。
それは、なぜなのか今は分かっています。
あの家には霊道が通っていました。
そして、
あの白い着物の女性は、
その土地に留まっていた地縛霊でした。
子供だった私は、そんなことも気にすることなく
ただ、
家の中に時々現れる
不思議な女の人として見ていました。
最初こそ怖かったものの、
小学校高学年になる頃には、
その女性を見かけても
ほとんど驚かなくなっていました。
「あ、またいる」
「久しぶりに見たなぁ」
そのくらい。
いつの間にか、幽霊というより、
家の中でたまにすれ違う
顔見知りのような存在になっていました。
そして不思議なことに、
どうやら向こうも
私の存在を気にしているようでした。
私の横を通る時、
その女性は
少し警戒したような目をしていました。
正面を向いて歩きながら、
横目でチラッ、チラッと
私のことを確認する。
まるで、
「この子、また私のこと見てる」
とでも思っているような。
そして、
幽霊だからといって
ゆっくり漂うような感じではありませんでした。
むしろ反対で、
いつも何かに急いでいるように
セカセカと歩いていく。
表情もある。
目線もある。
こちらを気にする様子もある。
その姿を何度も見ているうちに、
私は子どもながらに、
「霊も人間とそんなに変わらないんだなぁ」
と思うようになりました。
着ている服だけは、
ずいぶん昔の人のようでしたが。
ただ、
やっぱり普通の人間とは違いました。
その女性が現れる時には、
決まってあることが起こったからです。
急激な眠気。
そして、
金縛りのように
体が動かなくなる感覚。
それは、
眠っている時だけではありませんでした。
普通に起きて、
廊下を歩いている時でさえ起こります。
突然、
頭の中の思考が
プツンと止まったようになって、
強烈にぼーっとする。
意識だけが
一瞬どこかへ持っていかれるような、
妙な感覚。
そうなると決まって、
あの女性が現れました。
そして、
何事もなかったかのように
私の横を通り過ぎていく。
普段はあれだけ
人間らしい表情や意思を感じるのに、
こういう時だけは、
「あぁ、やっぱり幽霊なんだ」
と思いました。
そしてなぜか、
この女性のことだけは
本当にはっきり見えていました。
黒い髪も、
白い着物も、
顔も、
表情も。
でも、
何かをしてくるわけではありません。
危害を加えられたこともありませんでした。
だから、
いつしか怖さもなくなって、
見かけたとしても、
「久しぶりだなぁ」
と思うくらいになっていました。
そして数年後。
家を半分、
建て替えることになりました。
あの霊道が通っていた側の方でした。
工事を始める前に、
地鎮祭が行われました。
神主さんが祝詞を唱え始めた時のこと。
私は、
不思議な感覚に包まれました。
足の周りの感覚が、ふわふわ何かがまとわりついてくるような、
そんな感覚がしてきました。
そして、
どこからともなく
足の周りにふわーっとした風が漂い始めました。
その空気に包まれているうちに、
今度は
足の周りがじわじわと温かくなりました。
地面が熱くなっているような。
なんとも言えない、
不思議な感覚でした。
その後、
家は建て替えられました。
すると――
あれほど何度も見ていた
白い着物の女性が、
ぱったりと姿を見せなくなりました。
霊道は無くなりませんでしたが。
それでも地鎮祭をする大切さが分かりました。
そして――
この話には、まだ続きがあります。
あの白い着物の女性を
最後に見てから十数年後。
私は、
あの女性の正体を
知ることになります。
きっかけは、
祖母が亡くなったあとに明らかになった、
祖母がずっと秘密にしていた
あることでした。


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